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Danke! Tony Martin 〜マルティンのツール・ド・フランス2015を振り返る〜

 

世界選手権2021 個人タイムトライアル

ベルギー、フランドル地方で自転車ロードの世界選手権が開幕しました。

初日9月19日は男子エリートの個人タイムトライアル(個人TT)が行われました。

 

優勝したのはイタリアのフィリッポ・ガンナ。

2位のワウト・ヴァンアールト(ベルギー)を6秒差、3位のレムコ・エヴェネプール(ベルギー)を44秒差で降し、昨年に続く二度目の優勝を達成しました。

 

ドイツの装甲車

ガンナから1分18秒遅れの6位に終わったのがトニー・マルティン

ドイツのTTスペシャリストとして長年世界の第一線で活躍してきた選手です。

個人タイムトライアルでは世界選手権3連覇を含む4勝(2011-13、2016)。

ドイツ選手権に至っては8連覇を含む10勝(2010、2012-19、2021)。

彼がプロであげた67勝のうち、なんと7割以上(50勝)を個人TTでの勝利が占めています。

 

そのマルティンが今シーズン限りで引退することを表明しました。

彼の所属先(ユンボ・ヴィスマ)のツイートを引用しておきます。


落車が増えたりタイムトライアルでの勝利が減ったりと衰えを感じることも多くなりましたが、今年もドイツ王者に君臨してまだまだ元気だと思っていたので、引退の発表には驚きました。

 

マルティン選手お疲れ様!」の意味も込めて、特に好きな第102回ツール・ド・フランスを紹介します。

 

 

第102回 ツール・ド・フランス2015

2015年、エティックス・クイックステップに所属していたマルティンは、マーク・カヴェンディッシュ(英国)やミハウ・クフィアトコフスキー(ポーランド)のアシストとしてツール・ド・フランスに出場しました。

 

第1ステージ ユトレヒトユトレヒト(13.8km)

初日の個人タイムトライアルは猛暑のユトレヒト(オランダ)で行われました。

TTの得意なマルティンは暑さに苦しめられ、優勝したローハン・デニス(オーストラリア、BMC)と5秒差の2位に終わりました。

当然デニスが総合首位で、マイヨ・ジョーヌ(黄色いジャージ、総合成績でトップの選手に与えられる)を獲得しました。

 

ステージ優勝 ローハン・デニス(オーストラリア、BMC)

総合首位 ローハン・デニス(オーストラリア、BMC)

マルティンの成績 ステージ2位(+5秒)、総合2位(+5秒)

 


第2ステージ ユトレヒト〜ゼーランド(166km)

翌日の第2ステージ、「海の街」へ向かう道には強い海風が吹いていました。この強風によって集団が分裂し、マイヨ・ジョーヌのデニスは先頭集団から脱落してしまいました。

5秒差の2位につけるマルティンは先頭集団に踏みとどまったため、デニスを逆転して総合首位に立つ絶好のチャンスでした。

 

この日のフィニッシュはわずか25人に絞られた先頭集団でのスプリント勝負。マルティンのチームメイトのスプリンター、カヴェンディッシュはステージ4位に終わりました。

一方、首位と6秒差(マルティンと1秒差)の3位につけていたファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレック)がこの日もステージ3位に入り、ボーナスタイムとして総合成績から4秒減算。その結果カンチェラーラマルティンを逆転し、3秒差をつけて総合首位になってしまいました。

 

ステージ優勝 アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)

総合首位 ファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレック)

マルティンの成績 ステージ9位(+0秒)、総合2位(+3秒)

 


第3ステージ アントワープ〜ユイ(159.5km)

大規模な落車が立て続けに発生したレースで、前日総合首位に立ったカンチェラーラも落車し、大きくタイムを失いました(腰椎骨折で翌日出走せず)。

そのため、マルティンには再びマイヨ・ジョーヌのチャンスが巡ってきました。

 

しかしこの日のフィニッシュは、「ユイの壁」と呼ばれる1.3km、平均9.6%、最大19%の急坂で、マルティンに向いているとは言えないコースでした。

結局優勝したのはホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)。ユイの壁のような劇坂が大得意な選手です。

そして、ロドリゲスに食らい付いて2位に入ったのが総合10位、48秒遅れのクリス・フルーム(英国、スカイ)です。これによってフルームは6秒のボーナスタイムを得ました。


マルティンは40秒遅れの26位に終わり、総合成績ではフルームに1秒差の2位。

初日から5秒→3秒→1秒とタイム差を縮めながらも、3日連続で総合首位の座を逃すことになってしまいました。


ステージ優勝 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)

総合首位 クリス・フルーム(英国、スカイ)

マルティンの成績 ステージ26位(+40秒)、総合2位(+1秒)

 


第4ステージ スラン〜カンブレ(223.5km)

この日は石畳の区間をいくつも通過する難易度の高いコースで、パンクなどのメカトラブルも頻発しました。

マルティンも終盤にパンクに遭いましたが、チームメイトのマッテオ・トレンティン(イタリア)が自分の自転車を貸してくれたので、すぐにレースに復帰することができました。

そのためマルティンは最後の石畳区間が終わっても40人弱の先頭集団に残ることができました。


残り3.5km、集団が最後のスプリントに備えていたとき、マルティンが自らアタック。

ライバルが追走を躊躇う隙に一気にリードを広げました。

 

距離は短いながら、さすがはタイムトライアルの元世界王者。

チームメイトから借りた自転車で劇的な逃げ切り勝利を果たしました。


後続につけた3秒差と、ステージ優勝によるボーナスタイム10秒。

三日間2位に泣き続けたマルティンが悲願のマイヨ・ジョーヌに袖を通しました。

 


ステージ優勝 トニー・マルティン(ドイツ、エティックス)

総合首位 トニー・マルティン(ドイツ、エティックス)

マルティンの成績 ステージ優勝、総合1位

 


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第5ステージ アラス〜アミアン(189.5km)

前日ついに総合首位に立ったマルティンは、カヴェンディッシュのアシストをしました。

フィニッシュは大集団でのスプリント勝負。

グライペルが第2ステージに続いて今大会2勝目をあげた一方、カヴェンディッシュはまたしても勝利を逃し、3位に終わりました。

 

マルティンは無事に完走し、総合首位を守りました。

翌日のレースでもマイヨ・ジョーヌを着用します。


ステージ優勝 アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)

総合首位 トニー・マルティン(ドイツ、エティックス)

マルティンの成績 ステージ22位、総合1位

 


第6ステージ アブヴィル〜ル・アーヴル(191.5km)

前日に続きマイヨ ・ジョーヌを身に纏って走るマルティン

ル・アーヴルのフィニッシュ直前にアングヴィルの上り(850m、7%)がありますが、大集団でのフィニッシュが予想されました。

そのため何事もなければマルティンが順当に総合首位をキープできるはずの一日でした。


しかし、最後の最後に大きな悲劇が訪れました。


残り1キロを示すフラム・ルージュ(赤い炎、という意味のアーチ)をくぐった直後にマルティン自身がバランスを崩し転倒。周囲にいた選手を巻き添えにした大落車になってしまいました。


落車を逃れた集団の前方ではマルティンのチームメイトのズデニェック・シュティバル(チェコ)が力強くアタックし、後続を2秒差で振り切ってステージ初勝利を挙げました。

エティックスとしても、二日前のマルティンの勝利に続く今大会2勝目です。


優勝したシュティバルが喜ぶ一方、マルティンは落車地点でなかなか起き上がれません。

左肩を痛そうにしながら座り込んでいます。

仲間に助けられてようやく立ち上がると、チームメイトに支えられながらようやくフィニッシュしました。


ラスト3km以内での落車だったため救済措置が適用され、マイヨ・ジョーヌマルティンがキープ。

しかし、左鎖骨の骨折のため、彼のツール・ド・フランスはこの日で終了しました。

 

 

 

優勝したシュティバル、チームメイトのカヴェンディッシュのコメントからも分かるように、エティックス・クイックステップ歓喜と悲しみとの両方を味わうことになってしまいました。

 

ステージ優勝 ズデニェック・シュティバル(チェコ、エティックス)

総合首位 トニー・マルティン(ドイツ、エティックス)

マルティンの成績 ステージ174位、総合1位

 

 


第7ステージ リヴァロ〜フジェール(190.5km)

前日鎖骨を骨折したマルティンは総合首位ながらスタートせず。

マイヨ・ジョーヌを着たまま大会を去ってしまいました。

総合2位のフルームには繰り下げでマイヨ ・ジョーヌを着る義務がありましたが、フルームはマルティンに敬意を表して拒否しました。


第7ステージのコースは細かい起伏こそあるものの全体的に平坦で、スプリンター達にとってはステージ優勝を勝ち取る数少ないチャンスでした。

特にエティックスにとっては、マルティンに捧げるためにカヴェンディッシュの勝利がどうしても必要でした。


ここまですでに2勝をあげている絶好調のグライペルに対してカヴェンディッシュは4位と3位。いずれもスプリントを仕掛けるのが早すぎたため、最後に抜かれてしまっていました。


その反省から、この日のカヴェンディッシュは冷静にスプリントのタイミングを待ちました。

ギリギリまでグライペルの背後で粘り、フィニッシュへ飛び込みました。

その結果は…。

 

 

カヴェンディッシュはチームに2日連続の3勝目をもたらし、マルティンの手術成功を祝うことに成功しました。

 

 

ステージ優勝 マーク・カヴェンディッシュ(英国、エティックス)

総合首位 クリス・フルーム(英国、スカイ)

マルティンの成績 DNS(出走せず)

 

終わりに

マルティンの強さを伝えるもっといいエピソードはたくさんあると思います。

 

それでもこのレースを紹介したかったのは、初日から三日間一位を逃し続けたこと、四日目に渾身のアタックでマイヨ・ジョーヌを獲得したこと、その二日後の悲劇、そして翌日のカヴェンディッシュの勝利が一連のストーリーとして強烈に印象に残ったからです。

 

マルティンのラストレースは、9月22日に開催される男女ミックスリレーだそうです。

最後の走りを目に焼き付けましょう。

 

トニー・マルティン選手、現役お疲れ様でした!

 

【9月23日追記】引退レース(世界選手権2021 チームタイムトライアル男女混合リレー)

世界選手権2021のチームタイムトライアル男女混合リレーが日本時間昨夜行われました。

マルティンの引退レースとなったこの種目で、ドイツが初優勝を達成しました。

 

前回覇者のオランダ、今年のヨーロッパ大陸王者のイタリアを降しての快挙です。

 

世界選手権2021(フランドル)

1位 ドイツ(50分49秒10、52.540km/h)

2位 オランダ(+12秒79、52.321km/h)

3位 イタリア(+37秒74、51.898km/h)

 

 

マルティンは現役最後のレースで見事に金メダルを獲得。

個人タイムトライアルで4回世界王者に輝いた伝説の選手が、5枚目のマイヨ ・アルカンシエルで有終の美を飾りました。

 

ドイツおめでとう!マルティンおめでとう!

マルティンお疲れ様でした!